「いつものAMラジオから、ザ・ザ・ザ…という雑音が消えない」 「最近、ラジオ局が『ワイドFM』という言葉を連呼している気がする」
あなたは最近、そんな変化を感じていませんか?
実は今、日本のラジオ業界は、1925年のラジオ放送開始以来、最大とも言える「歴史的な大転換」の真っ只中にあります。
そのキーワードこそが、「AM停波」と「2028年問題」です。
結論から申し上げますと、2028年までに、多くの民放AMラジオ局がAM放送をやめ、FM放送(ワイドFM)へと一本化しようとしています。

「えっ、AMが聴けなくなるの?」 「私の持っている古いラジオやカーナビはゴミになっちゃうの?」
そんな不安や疑問を持つ方のために、この記事では元ラジオ関係者の視点から、「なぜAMをやめるのか」「私たちリスナーは何をすればいいのか」について、どこよりも分かりやすく、かつマニアックに解説します。
第1章:そもそも「2028年問題」とは何か?
まず、事態の全体像を把握しましょう。
これまで日本のラジオは、「AM放送(NHK+民放)」と「FM放送(民放+NHK)」という2つの電波帯が共存してきました。
しかし、多くの民放AM局(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、および地方のAM局)が、「もうAM放送を維持するのは限界だ。FMに引っ越したい」と声を上げたのです。
これを受けて総務省は制度を改正。
「2028年の秋(再免許の更新時期)」を目処に、民放AM局がAM放送を停波し、FM放送へ転換することを容認しました。
これがいわゆる「2028年問題」です。
すでに動きは始まっています。2024年から2025年にかけて、全国の13のラジオ局(IBC岩手放送、茨城放送、南海放送など)が、実証実験として一部のAM送信所を長期間「休止(停波)」させました。
これは、「実際にAMを止めてみても、ワイドFMがあればリスナーは困らないか?」を確認するためのリハーサルです。つまり、AM停波は未来の話ではなく、「現在進行系」の出来事なのです。
第2章:なぜ放送局は「AM」を捨てたいのか? 3つの致命的な理由
「AMにはAMの良さ(遠くまで届く、温かみのある音)があるじゃないか!」 そう思うオールドファンも多いでしょう。
しかし、放送局側には、どうしてもAMを続けられない「3つの切実な事情」があります。
理由1:設備更新にかかる「莫大なコスト」
これが最大の理由です。 AM放送の送信アンテナを見たことがありますか?
田んぼや海辺に立っている、高さ100メートルを超える巨大な鉄塔です。
AMの電波(中波)を飛ばすには、物理的に巨大なアンテナと、広大な敷地(アースを埋めるため)が必要です。
一方、FMのアンテナは、東京タワーや山の上の鉄塔の先端に「ちょこん」と付いている小さなものです。
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AM: 巨大な土地代、巨大な鉄塔の維持費、老朽化した送信機の更新費用(数億〜数十億円)。
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FM: 省スペースで、設備費も維持費もAMの数分の一以下。
ラジオ広告費が減少傾向にある中、民放局にとって「AMとFM、2つの設備を維持する(二重投資)」のは経営的に不可能なのです。
理由2:現代社会の「ノイズ」に弱すぎる
AMラジオを聴いていて、近くでドライヤーや掃除機を使った瞬間「ガーーッ!」とノイズが入った経験はありませんか?
AM(振幅変調)という方式は、電気的なノイズに極端に弱い性質があります。 昭和の時代なら問題ありませんでした。
しかし、現代はインバーター家電、LED照明、太陽光発電パネル、EV(電気自動車)など、AMにとっての「ノイズ発生源」が街中に溢れています。
特に鉄筋コンクリートのマンションの中では、AM波は遮断されやすく、さらに家電ノイズまみれになり、「ほとんど聴こえない」という状況が生まれています。
「都市部でまともに聴こえないメディア」になってしまったこと。これがAM離れを加速させました。
理由3:送信所の「土地問題」と「老朽化」
AMの送信所は、電波を飛ばすために「水気の多い、広大な土地」が必要です。
かつては郊外の田園地帯でしたが、都市化が進み、送信所の周りが住宅地になってしまったケースが多々あります。
もし今、巨大なアンテナが倒壊したら? 老朽化した設備を建て替えたくても、近隣住民の理解が得られない、あるいは地価が高騰して更新できない。
「送信所を維持すること自体がリスク」という局も増えているのです。
第3章:「ワイドFM」とは何か? 私たちへのメリット
そこで登場した救世主が「ワイドFM(FM補完放送)」です。
これは、従来のFM放送(76.0MHz〜90.0MHz)の枠を広げ、90.0MHz〜94.9MHzという新しい周波数帯を使って、AM局の番組を放送する仕組みです。
AM局がワイドFMに移行することで、リスナーには以下のメリットがあります。
1. 音が劇的に良くなる(ステレオ放送)
AM放送は基本的にモノラルで、音質もこもっていました。
ワイドFMになれば、音楽CD並みのクリアな音質で、しかもステレオで聴くことができます。
大好きなアイドルの声も、野球中継の臨場感も、AMとは比べ物にならないほど鮮明になります。
2. ノイズに強く、マンションでも聴ける
FM波はノイズの影響を受けにくく、建物の中にもある程度浸透します(※窓際推奨)。
これまで「ザーザー」という音に悩まされていた都市部のリスナーにとって、ストレスフリーな聴取環境が手に入ります。
3. 災害時の「聞こえやすさ」
「災害にはAMが強い」と昔は言われました。
確かにAMは山を越えて遠くまで届きますが、前述の通り、現代の都市災害においては「ビル陰や室内でノイズまみれになるAM」よりも、「クリアに聴こえるFM」の方が情報を正確に伝えられるケースが増えています。
第4章:ここが重要! あなたの「ラジオ」は使える? 使えない?
さて、ここからが本題です。
2028年に向けてAMが停波し、ワイドFMに一本化された場合、私たちの手元にあるラジオはどうなるのでしょうか?
【危険】90MHzまでしか聴けない「古いラジオ」
家の押し入れにある古いラジカセや、10年以上前のカーオーディオを確認してください。
周波数のメモリが「76MHz 〜 90MHz」で終わっていませんか?
残念ながら、このタイプのラジオでは、ワイドFM(90.1MHz以上)を聴くことはできません。
TBSラジオ(90.5MHz)も、ニッポン放送(93.0MHz)も受信できないのです。
【安全】「ワイドFM対応」のラジオ
最近(ここ10年ほど)発売されたラジオやコンポ、カーナビであれば、「FM 76MHz 〜 95MHz(または108MHz)」まで受信できるようになっています。
このタイプなら、何の問題もなく、これまで通り(今まで以上に高音質で)ラジオを楽しめます。
【アクションプラン】 今のうちに、ご自宅のラジオや車の周波数帯をチェックしましょう。もし90MHzまでなら、買い替えの検討が必要です。
第5章:よくある誤解と「残るAM」の話
ここで、よくある誤解を解いておきましょう。
誤解:「日本からAM放送が完全に消滅するの?」
答え:いいえ、消えません。
今回、FM転換(または併用)を進めているのは、あくまで「民放AM局」の話です。
NHK(ラジオ第一・第二)については、事情が異なります。
NHKもラジオ第二(教育)については減波・整理する方向ですが、ラジオ第一放送(R1)に関しては、広域災害時の「ラスト・リゾート(最後の砦)」として、今後もAM放送を維持する方針です。
また、北海道や秋田など、広大な面積を持つ地域の民放局では、FMだけで全域をカバーするのが難しいため、一部の地域でAMを残す可能性があります。
つまり、2028年以降の世界は、 「民放はFM(クリアな音)、NHKはAM(遠くまで届く安心)」 という役割分担の時代になると予想されます。
第6章:ラジオの未来はどうなる? 「radiko」とのハイブリッド
ここまで「電波」の話をしてきましたが、忘れてはならないのがインターネット配信「radiko(ラジコ)」の存在です。
AM停波の議論と並行して、ラジオ業界は「放送(電波)と通信(ネット)の融合」を進めています。
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家では: スマートスピーカーやスマホ(radiko)で高音質に聴く。
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車や外では: ワイドFMでパケット通信料を気にせず聴く。
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非常時は: 電池で動くワイドFM対応ラジオで情報を得る。
このように、シチュエーションに合わせて使い分けるのが、これからの「スマートなラジオライフ」です。
まとめ:2028年は「終わり」ではなく「進化」の年
「AMの灯が消える」と聞くと寂しく感じるかもしれません。 あの独特のノイズ混じりの音に、昭和の郷愁を感じる気持ち、痛いほど分かります。
しかし、この移行は、ラジオというメディアがコスト削減のためだけに縮小するのではなく、「よりクリアな音で、より安定して情報を届ける」ために脱皮するための必要な進化です。
2028年はまだ少し先ですが、すでに多くの局でワイドFM放送は始まっています。 まずは手元のラジオを「ワイドFM対応」のものに新調して、そのクリアな音質を体感してみてください。
「えっ、ラジオってこんなにいい音だったの?」という新しい感動が、きっとそこにはあるはずです。
ラジオは死にません。 AMという衣を脱ぎ捨てて、よりタフでクリアなメディアへと生まれ変わるのです。
補足:あなたの街の周波数を確認しよう
主要なAM局のワイドFM周波数リスト(一例)
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TBSラジオ:90.5MHz
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文化放送:91.6MHz
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ニッポン放送:93.0MHz
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MBSラジオ:90.6MHz
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ABCラジオ:93.3MHz
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ラジオ大阪:91.9MHz
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CBCラジオ:93.7MHz
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東海ラジオ:92.9MHz
※お住まいの地域の詳しい周波数は、「(放送局名) ワイドFM」で検索してみてください。