ラジオを聴いていて「合間に流れたCMが面白かった」という経験はありませんか?
テレビCMが「映像+音」で情報を伝えるのに対し、ラジオCMは「音」しか使えません。
「映像がない」という圧倒的な制約があるからこそ、クリエイターたちは知恵を絞り、言葉遊び、効果音、
そして絶妙な「間」を駆使して、リスナーの脳内に映像を浮かび上がらせようとします。
そう、優れたラジオCMは、単なる広告ではなく「数十秒の音のエンターテインメント作品」なのです。
今回は、日本の広告賞の最高峰の一つ「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS(旧 ACC CMフェスティバル)」の
ラジオ&オーディオ広告部門で受賞した作品を中心に、「これはやられた!」と唸った傑作ラジオCMの世界を紹介します。
※大人の事情で実際の音声を流すことはできませんが、シナリオの雰囲気と「何がすごいのか」の解説で、その面白さを想像力豊かにお楽しみください!

1. そもそも「ACC賞」ってすごいの?
ご存知ない方のために簡単に説明すると、「広告業界の直木賞・芥川賞」のようなものです。
日本のトップクリエイターたちが審査員となり、「アイデア」「技術」「時代性」など、あらゆる面で優れていると認めた作品にのみ贈られる権威ある賞です。
ここでグランプリやゴールドを受賞した作品は、いわば「プロが認めた最高に面白いCM」のお墨付きと言えます。
2. 脳みそを揺さぶる!傑作ラジオCM選
過去の受賞作の中から、特に「ラジオならでは」の表現が光る傑作をタイプ別に紹介します。
【キング・オブ・シュール】大日本除虫菊(金鳥)シリーズ
ラジオCMを語る上で、絶対に避けて通れないのが「金鳥」です。
もはや神格化されていると言っても過言ではありません。
毎年、夏が近づくと「今年の金鳥のCMはどうくるか?」と広告業界がざわつくほどの存在です。
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どんなCM? 一言で言えば「シュールな会話劇」。
「少年と、やたらと色気のある声の蚊の会話」「ゴキブリたちが将来の夢を語り合う」「突然始まる演歌」など、映像にしたら放送事故になりかねないカオスな設定を、大真面目なトーンで展開します。 -
ここがすごい!:計算し尽くされた「間」と「違和感」 金鳥のCMは、とにかく「間(ま)」が絶妙です。
会話の途中に訪れる奇妙な沈黙や、意図的にずらしたタイミングが、爆発的な笑いを生み出します。
そして、最後に流れる「♪金鳥の夏、日本の夏」という美しいサウンドロゴで正気に戻されるところまでが様式美です。
【泣ける60秒の映画】物語(ストーリー)系:東京ガスほか
ラジオCMは時として、たった数十秒でリスナーを号泣させることがあります。その代表格が「東京ガス」のCMです。
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どんなCM?(東京ガス「家族の絆」シリーズなど) 描かれるのは、どこにでもある家族の風景です。
反抗期の娘と父親のぎこちない朝食、上京する息子に持たせる母の手作り弁当、定年退職を迎えた日の夫婦の会話……。
派手な事件は起きませんが、誰もが経験する人生の節目を切り取ります。 -
ここがすごい!:想像力に委ねる「引き算の美学」 このタイプの傑作は、多くを語りません。
「ただいま」という声のトーンの揺らぎ、遠くで聞こえる踏切の音、台所から聞こえる包丁のリズム。
そうしたわずかな音のヒントだけで、リスナーは自分の思い出を重ね合わせ、勝手に脳内で映像を作り上げてしまうのです。
「映像がないからこそ、最も鮮明な情景が見える」。ラジオの特性を極限まで活かした、ACC賞常連の「泣ける名作」たちです。
【音の魔術師】リズム・音響系:キユーピーほか
ラジオは「音」のメディア。理屈抜きで「聴いていて気持ちいい」「楽しい」という感覚に訴えかける傑作もあります。
その最高峰が「キユーピー」のCMです。
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どんなCM?(キユーピー マヨネーズ「オノマトペ」シリーズなど) 野菜を洗う水の音、キャベツを刻むトントントンというリズム。
そこに、ナレーターの独特な声でユニークなオノマトペ(擬音語・擬態語)が重なります。
「ブロッコリーを、茹でて、モキュ。マヨネーズを、ブリュニュ。食べれば、ハフン」といった具合に、言葉の意味を超えた音遊びが展開されます。 -
ここがすごい!:脳に直接届く「音の快感」 単に料理の音を流すだけでなく、それが音楽のように計算された心地よいリズムで構成されています。
聴いているだけで野菜のみずみずしさが伝わり、無性にサラダが食べたくなる。
言葉で説得するのではなく、脳の快感中枢を直接刺激してくるような、音響デザインの勝利と言えるCMです。
4. なぜラジオCMは面白いのか?
テレビCMが「見てもらう」メディアだとすれば、ラジオCMは「(他のことをしているリスナーに)聴いてもらう」メディアです。
リスナーは運転中だったり、仕事をしていたり、基本的には「ながら聞き」をしています。
そんな彼らの耳を一瞬で振り向かせるためには、生半可なアイデアでは通用しません。
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金鳥のような強烈な「違和感」
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東京ガスのような共感を呼ぶ「物語」
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キユーピーのような生理的な「音の快感」
こうした強力なフックを、限られた秒数の中に極限まで詰め込む。
この「不自由さ」こそが、クリエイターたちの情熱に火をつけ、テレビCMとは一味違う、尖った傑作たちを生み出す土壌となっているのです。
まとめ:CM中も「耳」をすませてみよう
ラジオを聴いていてCMに入ると、ついトイレに立ったり、スマホを見たりしてしまいがちです。
でも、もしかしたらその数十秒間には、広告のプロたちが命を削って生み出した、笑えて、泣けて、お腹が空く、珠玉のエンターテインメントが流れているかもしれません。
これからは、CMが流れてきてもチャンネルを変えず、少しだけ耳をすませてみてください。「音だけで、ここまでやるか!」という驚きが、きっとそこにはあります。